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「80年代という時代」展

1980年代のラジオやテレビは、世界中に輸出されて高く評価され、ハイテクを取り入れた多機能、高機能を押し出した製品や、なんでもありのバブル時代ならではのユニークな製品もあり、日本の電子業界の絶頂期の自信にあふれています。タイトル写真はこの時代の製品の一部です。80年代も遠くなった、平成最後の年(2019年)に開催した企画展の様子をお伝えします。

はじめに

1980年代のはじめ、マイコンが本格的にAV機器に使われるようになり、パソコンが市販されました。1982年にはそれまでのレコードに代わってCDが発売され、「デジタル化」が大きな流れとなりました。マイコンなどの技術をうまく取り入れ、高い生産技術で高品質と低価格を兼ね備えた日本製のAV機器は世界に輸出され、特にビデオデッキは日本の独壇場でした。

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ビクターのビデオデッキとファミコンの展示

アメリカとの間では貿易摩擦が生じ、85年のプラザ合意で円高になり、その「円高不況」克服のために金融緩和が長く続き、大量の資金が投資に回って地価と株価の高騰が起きました。バブル景気です。国内では好景気の下でCDや大型テレビなどの新製品が売れていましたが、円高によって輸出競争力が弱まり、工場の海外移転が進みました。1985年は、日本の半導体やAV機器が、それまでの輸出の主力商品から輸入品に変わる転機となった年です。

1989年1月7日、1980年代最後の年の初めに、昭和が終わりました。そして11月9日、ベルリンの壁が開き、世界が大きく変わりました。1980年代に実用化されたデジタル技術が、1990年代に入って携帯電話やネットなどの新たなうねりを作り出していくことになります。

この時代のラジオやテレビは、ハイテクを取り入れた多機能、高機能を押し出した製品や、なんでもありのバブル時代ならではのユニークな製品もあり、日本の電子業界の絶頂期の自信にあふれています。

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小型コンポと巨大なカラーテレビ付きラジカセ、ラジオ付きテレビの展示

今回の特別展では、1980年代を代表するラジオ、テレビ、オーディオ機器を中心に、パソコンやファミコンに代表されるゲーム機などのIT機器や関連するデジタル機器も含めて展示します。小さくなったこともありますが、ラジオは目立たなくなり、ラジカセ、ウォークマン、CDが普及し、ビデオ、ビデオディスク、パソコン、ゲーム機などによってテレビは放送を見るだけの受像機からディスプレイになりました。メディアの多様化が進んだ時代を感じていただければと思います。

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80年代のパソコンの展示です。ホビーパソコンの代表と言えるNEC PC-6001(下)とハンドヘルドパソコンの元祖EPSON HC-20 家庭用パソコンはテレビにつないで使ったのでソニーのCItationを展示しました。

1980年代の幕開け

80年代は、第2次石油ショックによる不況で幕を開けました。景気は悪かったものの、自動車、テレビやビデオ、半導体などは高品質と低価格で世界中に売れていました。日本の成長に反してアメリカでは経済に陰りが見えはじめ、自動車や鉄鋼などの産業が凋落し始めました。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などという本でおだてられ、日本人は自信を持ち始めていました。この本は、日本を讃える内容ではありますが、低迷していたアメリカに刺激を与えるために書かれたもので、よく読むと、日本に対する厳しい指摘も多く読み取れます。

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『ジャパン・アズ・ナンバーワン』 E.F. ヴォ―ゲル 1979年

70年代後半に流行し始めたラジカセとヘッドホンステレオが本格的に普及しました。そして、ビデオデッキも低価格化(それでも10万円以上していました)して普及し始め、新たにビデオディスクも現れました。団塊の世代の成長に伴う市場の伸びと、これらの新商品の牽引もあってとりあえず成長は続き、団塊の世代が働き盛りとなるころに「バブル景気」が到来しました。

そして、同じく70年代生まれのマイクロコンピュータ(マイコン)の性能が良くなって低価格化したことから、マイコン制御の家電やAV機器(この言葉も80年代生まれです)が登場し、タッチ式の操作やデジタル表示が増えてきました。

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ユニークな80年代の小型テレビの展示

ビジネス用だけでなくホビー用にも低価格のパソコンが発売され、CDの発売でレコードもデジタル化され、「デジタル」「ハイテク」「ニューメディア」などの言葉が流行語となりました。また、81年11月の『日経ビジネス』の記事から「軽薄短小」が、日本製の半導体や電子機器の優位性を示す言葉として流行しました。

安価な小型ラジオはすでに台湾や香港製が多くなり、かつてのような輸出の花形ではなくなっていましたが、半導体やデジタル技術を応用した電子同調式ラジオや、超薄型ラジオなどの付加価値のある製品が登場しました。

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ヘッドホンステレオと薄型ラジオ、球団マーク入りラジオの展示

80年代前半のデザインは、70年代を引きずったシルバーを中心とした色遣いの製品が多いのですが、ヘッドホンステレオやラジカセなどの小型の製品から女性を意識したカラフルでポップなデザインがみられるようになりました。

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ポップなデザインとメカ的なデザインが混在する80年代のラジカセ

レコードやCDは高価だったため、FMラジオからカセットテープに録音する「エアチェック」が流行し、ラジカセとともに普及品から高級品まで多種多様なカセットテープが発売されました。そして、エアチェックのためのFM雑誌が全盛期を迎えた時代でした。

1980年代後半のデザイン

80年代後半は、円高不況克服のための金融緩和が効きすぎて土地や株が高騰し、「バブル景気」と呼ばれる一見華やかな時代になっていました。

シルバーが多かったオーディオや大型ラジカセなどのデザインは、80年代後半になると黒色が多数派となりました。カラフルでポップなデザインのヘッドホンステレオやラジカセも、黒やガンメタの落ち着いた色の製品が多くなりました。これは、中高生でポップなデザインのヘッドホンステレオなどに親しんだ世代が大学生や社会人になり、子供っぽい派手なデザインを「卒業」したというのもデザインの変化の理由と考えられます。

ビデオ機器についても、本格的なAVシステム(まだホームシアターとは呼んでいません)が導入されるようになると、テレビ画面に対して目立つシルバーのデザインは避けられるようになり、黒が主流となりました。これ以降、業界用語で家電用品を「白物」と呼ぶのに対してAV機器を「黒物」と呼ぶようになりました(「白物家電」ほどに一般には使われていません)。

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80年代末のラジカセとミニコンポの展示

70年代同様、ラジカセは巨大化していきました。CDラジカセとなったことから、CDを上部に搭載できるように70年代のラジカセより奥行きがあり、背が低く、横に長いデザインになりました。振動に強く、低音再生が容易に実現できたCDの普及は、ラジカセにも強烈な低音再生を求めるようになりました。こうしてできたのが、ソニーの「ドデカホーン」に代表される大型のCDラジカセです。近年は、このような大型ラジカセは「バブルラジカセ」と呼ばれてコレクターに人気があります。

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「バブルラジカセ」の展示、上がソニーの「ドデカホーン」

概要

企画展名称:
80年代という時代 バブル前後のラジオとテレビ
開催期間:
2019年3月16日(土)―2020年1月10日(金)

館長のひとりごと

この企画展で展示したラジカセやウォークマン、ゲーム機などは私と同世代の50代には懐かしいものばかりです。電気屋に飽きもせず通ったり、オーディオフェアなどの展示会で紙袋いっぱいにカタログをもらって帰ったりしたものです。

とはいうものの、私はこの頃、ちょうど80年代前半が高校生から大学生でしたが、この頃はすでに真空管ラジオやアンプに夢中になっていて、高校の受験勉強は近所で拾ってきて自分で修理した昭和20年代の真空管ラジオで深夜放送を聞きながら勉強をしていたという変な中学生だったので、実は一度もウォークマンやラジカセを欲しいと思ったことがありません。本格的なオーディオには興味があって高級オーディオには詳しかったのですが、ラジカセやミニコンポは全く眼中にありませんでした。

というわけで、80年代の所蔵品はそれなりにあったものの自分では何が大事なのかよくわからず、同世代の友人と飲みながら思い出話にふけり、どんな製品が注目されていたか聞いて助けてもらいました。
オープンしたら予想通り同世代の親父に大人気でした。「これ持ってた」「欲しかったんだよな」という会話があちこちで。家族に一生懸命説明するお父さんの姿も。いつもの企画展と違ってお客さんのほうが詳しいので説明の手間がいらず、同世代の昔話で盛り上がって楽しい企画展になりました。

また、余裕があった特別展示室の一部を使ってミニ企画展として「戦時下のラジオと情報統制」を開催しました。2019年は1980年から39年後になりますが、1980年の39年前は1941年、太平洋戦争開戦の年となります。バブル期にラジカセやテレビを開発したり販売していた中年男性は、戦時中に少年時代を送っていた人たちです。そして1980年に、その製品をまぶしそうに見ていた少年が39年後の現代の中年というわけです。同じ39年でも随分と激しい変化があったことがわかります。意外な組み合わせですが、1980年を中心に現代と1941年という2つの時代を見つめ直すのも興味深いかと思います。

出展目録

ポスター

ポスターの住所、連絡先は開催当時のものです。

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